作家にとって個展というのは、基本的に腕の見せ所であって、自身の中で先端未公開の勝負作品を発表するのが新進気鋭作家と呼ばれる人たちのスタンダードだろう。けれど写真を撮ることが自分の天命と気づいて30年という節目に私がどうしてもやりたかったのは、そういう攻めの展示ではなかった。
未熟な作品も含め、過去30年の試行錯誤をさらけ出すことで、これから写真と共に生きていこうとする人たちに向けて自分の経験や考えをしっかり伝え、何かしらの支えとして役立てるようなことがやりたかった。
作品制作しかしたことのない美大や芸大の学生や、評価を手に入れることばかり考えている本末転倒者に私が伝えられることは何もない。でも社会の中で自立して生きる名もなき大人たちを写真で支えることはできる。中でも生理や更年期に翻弄されながらも他人を思いやる弱くて優しい女性たちが、その小さな声を遠くまで響かせられるように背中を押し続けたいと心から願っている。
育緒
育緒氏は京都に生まれ、東京、メキシコシティ、ハリウッド、サンフランシスコなどに暮らし、現在は東京と京都を行き来しながら活動している写真家です。独学で写真を始めた育緒氏は、2000年にはカメラ修理の名人として知られる直井浩明氏のもとで機械式カメラの修理技術を学び、クラシック・カメラの修理職人としても活動されています。
2003年から2年間にわたって滞在した米国ハリウッドでの、自由や快楽におぼれていく人々、まちの様子をとらえた作品「甘い地獄」で、2007年の土門拳文化賞を受賞。「文明や物質社会への鋭い批評精神をもった作品で、表現者としての鋭い視点や思想性が光る秀作」と評されました。
2012年には写真集『酔いどれ吟遊詩人』(窓社)を発表し、2017年には舞踏家・今貂子氏の45分間の舞台『秘色(ひそく)』を息遣いが伝わる至近の間合いの中、動く被写体を写すにはギリギリの明るさで撮影した緊張感みなぎる作品を発表してまいりました。いずれもモノクロフィルムで捉え、自身の手で印画紙(バライタ紙)に焼き付けた作品であり、その方法こそが育緒氏にとっての写真表現の柱であったと伺い知ることができます。
昨年2018年、育緒氏はピクトリコギャラリーにて写真展『プラトンの洞窟』を開催。その際これまでのフィルムでの撮影ではなく、3層構造のセンサーを持つ株式会社シグマのデジタルカメラを使用するとともに、インクジェットでの作品発表を行いました。そこには自身のスタイルを越えて、「デジタルカメラでしかできないことは何か」さらに言えば「写真とは何か」を追求していこうとする姿を見ることができます。
今年で写真を始めて30年目となる育緒氏。今展覧会では、現在の自分にとって「写真とは何か」を、いくつもの異なるアプローチで展開する多層多面の個展となります。30年の集大成となる育緒氏の企画展を是非ともご高覧ください。
ギャラリーソラリス 橋本大和
また8/31(土)には、育緒さん自身による作品解説を予定しております。お気軽にお越しください。
▼トークイベントについて
育緒さんが監修されている写真誌「Rhizome(リゾーム)」の最新号を展覧会にあわせて入荷いたしました!会場で販売中(税込1,000円)ですので、ぜひ手にとってご覧ください。
【9月スタート】育緒のフィルム写真ゼミ、受講生受付中のおしらせ
「育緒のフィルム写真ゼミ」は毎月それぞれの写真を持ち寄る、講評ワークショップです。人に写真を見せることは、自分の写真を客観的に見られるようになるためにも大切なこと。育緒さんからの講評や、お互いの感想や意見を交換することで、きっと新たな展開が起こると信じています。基本的には自身がセレクトしたものを見てもらうのではなく、撮ったものをすべて育緒さんがチェックし「何を選ぶのか」というセレクトの段階から指導を受けられるのが特徴です。
フィルム写真であれば、モノクロ・カラー、年齢・男女・経験は問いません。また、修了生は「ソラリス」で作品展示[2020年4月予定]を行います(修了展参加費はゼミ受講料に含まれています)。
今からフィルム写真を始める方もぜひ!熱意ある参加者を待っています!
▼ 育緒フィルム写真ゼミについて
2019年8月27日(火)〜9月8日(日)
11:00〜19:00
※9/2(月)休廊
※8月31日(土)15:00~16:00・17:00~19:00はイベントのため、入場いただけません
最終更新日:19年8月27日(火)
投稿者:solaris