2022年11月29日(火)〜 12月11日(日) 11:00〜19:00 ※12/5(月)休廊
作家在廊予定
11/29(火)、11/30(水)、12/1(木)、12/2(金)、12/3(土)、12/4(日)
12/8(木)、12/9(金)12/10(土)
各日 14:00頃から19:00まで在廊予定です。
2年以上に及ぶコロナ渦。外出を制限される中、ニュースという名で大量に配信される悲観的な音声や映像が、すでに飽和状態の私に無理やり入り込もうとする毎日は、悪夢でした。まん延防止対策という大義名分のもとにデジタル化を急加速させる社会にも、強い違和感を感じていました。
トロイメライとはドイツ語で「夢みること」を意味する言葉であり、音楽家シューマンが1839年に作曲した『子供の情景』第7章のタイトルでもあります。疲れ果てるとこの曲をピアノで弾きながら、子どもの頃に飽きることなく眺め、想像を膨らませた、外国の絵本の景色を思い返して過ごしました。これはノスタルジーや現実逃避ではなく、切実な自己セラピーだったと感じています。音を指から体に響かせ、穏やかな景色を脳裏に浮かべることで心のバランスを取り戻したかったのだと思います。
私はヨーロッパへの渡航が可能になったら旅に出ようと決めました。森の匂いを吸い込み、動物や鳥の声を聞き、遠くまで広がる丘を眺めたい。いろんなものを穏やかに見つめて過ごすだけの、贅沢な時間に溺れたいと思ったのです。 早速パソコンの前に座り、行ったこともなく知り合いもいない遠い国の小さな酪農村を次々と夢中で検索しました。まるで5歳の私が夢見ていた世界へ向かうタイムマシンを手に入れたかのような、嬉々とした気持ちだったと思います。滑稽な話ですが、パソコンが時には魔法のツールにもなることを、デジタル社会に追い詰められたおかげで初めて実感できたのです。
旅先に着くと、本当にタイムマシンで来たんだと錯覚できるほど、古い童話のままの風景があり、100年前の道具を大切に使いながら働く人々の生活がありました。そこに身を置いた2週間ほどの間に、アナログとデジタルのバランスがどれほど人間にとって大切なことなのか、わかった気がします。どちらが便利か、どちらが得か、効率はどうかと比較する度にデジタル化が進むのは、競争社会として正しい選択なのかもしれません。けれどそういう基準で振るい落とされたもの=ゆるく曖昧な人間味を含有しているもの、とは考えられないでしょうか。
様々なことを思いながらつくったので、いろいろ書きました。けれどそれを読んで頂いた上で、最終的には「トロイメライ」という言葉の通り、子どものように夢を見るように写真と向き合ってもらえたら何よりです。
育緒
ソラリスでは11月29日より12月11日まで、育緒 写真展「Träumerei トロイメライ」を開催いたします。ソラリスで育緒氏の写真展は5度目の開催となります。
育緒氏は京都に生まれ、東京、メキシコシティ、ハリウッド、サンフランシスコなどに暮らし、現在は東京と京都を行き来しながら活動している写真家です。2003年から2年間にわたって滞在したハリウッドでの、自由や快楽におぼれていく人々、街の様子を捉えた作品「甘い地獄」では、2007年 土門拳文化賞を受賞し、「文明や物質社会への鋭い批評精神をもった作品で、表現者としての鋭い視点や思想性が光る秀作」と評されました。
『Träumerei トロイメライ』は作家ステートメントにあるように、長いコロナ渦の生活や悲観的なニュースに溢れる閉塞的な空気から離れるように、出入国管理が緩和されたばかりのベルギーの小さな村へ旅に出て、撮影した作品となります。
いろんなものを穏やかに見つめて過ごす時間の中で、世界を信じる気持ちを取り戻すようにのびのびと光と戯れ、撮影し生まれた今作『Träumerei トロイメライ』は、生きることへの願いをかたどったように見えます。
また展覧会にあわせ、今作『Träumerei トロイメライ』とともに過去作である、『プラトンの洞窟』、『瞬きもせず』を収録した96ページに及ぶ写真集「3 straight stories with 125 photographs」(FCR books)が刊行されます。
カメラのデジタル化と、日本社会のデジタル化を重ねあわせながら、「実体」を失うことの意味に目を向けた『プラトンの洞窟』。
20代に中米のグアテマラ共和国で撮影したポートレートを50代になった今、見つめ直して再構成した『瞬きもせず』。
そして、明るい外に眼を向け、今の自分の思いを写した『Träumerei トロイメライ』。
これら3つの作品シリーズから構成された今写真集は、育緒氏が作品「甘い地獄」で評された時と変わらぬ<文明や物質社会への鋭い批評精神>を持った作家であることを感じさせます。
トークイベントでは、スライドを使って3つの作品の解説とともに、写真集制作への思いを伺います。
ぜひこの機会に足をお運びください。
今回刊行される写真集「3 straight stories with 125 photographs」は、3つの作品シリーズによって構成されています。トークイベントではそれぞれの作品解説とともに「テーマ」についての取り組み方、そして育緒さん自身が音をつけ、展示とは異なる世界観に仕上げたスライド作品を場内を暗くして見て頂きます。各回同内容、90分程度を予定しています。
今作&過去作のプリント(暗室で手焼きしたもの、ラムダ出力、インクジェットなど)を手に取って見てもらいながらその特徴についてお話していきます。ぜひ自身の制作に役立てて下さい。各回同内容、60分程度を予定しています。
いつか自分の写真集を制作してみたいと考えている方(考えてなくても勿論OK)に役立つノウハウをわかり易く説明します。出版社を通すのと通さないのとでは何が違うのか。通すとしたら自分はどこまで関われるのか。印刷会社に直に持ち込むとしたらデータはどう作るのか、予算はいくらか、紙面の編集やデザインに必要な知識はどの程度なのか、などについてお話しします。何から何まで出版社に任せていた10年前を振り返りつつ、「写真家側から考える出版」について話します。各回同内容、60分程度を予定しています。
展覧会にあわせ、育緒氏にとって2冊目となる写真集「3 straight stories」が刊行されました。そのタイトルの通り、『プラトンの洞窟』、『瞬きもせず』、『Träumerei トロイメライ』の3部による構成となっています。
前文に福川芳郎(ブリッツ・インターナショナル代表)による「コロナ禍における写真家の内面ドキュメント」、巻末に長島有里枝(写真家・文筆家)による「見えないことは見ないことじゃない」、岡村嘉子(美術史家)による「手触りの形見」収録。
出版社:FCR books|発行年:2022|編集・デザイン:育緒|印刷:株式会社サンエムカラー|サイズ:約203×254mm|重さ:約365g|ページ:96ページ|掲載点数:125点|製本:無線とじ|言語:日本語
1968年 京都市生まれ
東京、メキシコシティ、ハリウッド、サンフランシスコなどに暮らし、現在は東京と京都をダブル拠点にして作家活動を展開。
2000年 機械式カメラの修理技術を学び、クラシックカメラの修理職人としても多くのワークショップを開催。
2007年に土門拳文化賞受賞。
【個展】
2021「Lumen」 ギャラリーソラリス(大阪)
2020「Perfect gamble」 ギャラリーソラリス(大阪)
2020「Perfect gamble」 ナダール(東京)
2019「Side ABC」 ギャラリーソラリス(大阪)
2018「プラトンの洞窟」 gallery main(京都)
2018「プラトンの洞窟」 ピクトリコギャラリー表参道(東京)
2017「45min.」 gallery main(京都)
2016「Noble」 京都ホテルオークラ
2015「Whiskey Drinking Troubadour」 gallery main
2013「Whiskey Drinking Troubadour」 iTohen(大阪)
2012「Whiskey Drinking Troubadour」 In Style Photography Center(東京)
2008「甘い地獄」 新宿ニコンサロン(東京)
2007「甘い地獄」 土門拳記念館(山形)
【主な出版物】
写真集「ゆきやこんこん」(私家版|2020)
季刊写真誌『リゾーム』(発行人/育緒|2018〜)
著書「I love フィルムカメラ」(技術評論社 2015)
写真集「Whiskey Drinking Troubadour」(窓社 2012)